不景気に効く会計

会計制度が変化し,株主に対する様々な情報開示が必要な今日,会計の知識が重要になることは明白である.しかし,その会計制度の変化が日本企業の経営に変化をもたらし,会計に振り回されている経営になっていないか?と著者は問う.会計は経営を写すものであり,経営に生かすものであり,会計の数字ばかりに振り回されてはいけないという.
外食大手のすかいらーくMBOに踏み切ったというニュースがあったが,それも大幅な投資を行うことによる経営収支の悪化が見込まれるため,株式を市場で売買することに危機を感じ,MBOを行い,株式の店頭公開をやめてしまった.これは,株価の低落による乗っ取りなどを防ぐという面もあるかもしれないが,同時に経営者は株価に対しものすごく神経質になっていることがわかる.
以前,ゴールドラットさんの「チェンジ・ザ・ルール」を読んでいて感じたのが,経営者が株価に極めて敏感なことだった.株価を下げないためにはなんとかして利益を上げないと行けないという,そういう強迫にちかいものが経営者にのしかかっていることが示されていた.日本も,時価会計による有価証券の時価評価によって,持ち合っている株式の会社の株価が即,自社の数字に反映されてくるとなると,株主を軽視できなくなり,株価が重要になってくる.そのため,あれこれ無理をしてしまう.ホリエモンなどはその極端な形だろう.
そのほか,気づいたことなど,メモ.

  • 日本ではP/Lが重要視されてきているが,このような利益は資産の売却などでなんとでもなってしまう.むしろ,B/Sの方が長期的には重要.
  • 債務超過とは資産<負債のこと.欠損企業とは負債+資本>資産のこと.欠損企業では投資>リターンになっていて,投資した金額に比較して資産が小さくなっている.
  • 減損会計」とは投資を行った土地などの固定資産について,簿価よりも低い価値しか持っていない場合は,即座に損失として計上しなければならない制度.投資家は自分たちの投資が現時点でリターンを生んでいるかどうかを早い段階でチェックできるというメリットを持つ.土地神話が存在していた日本では考えられなかった制度だった.
  • 30人で1億を稼ぐ企業と,300人で1億を稼ぐ企業では,30人の方が投資家にとってはいい企業.しかし,300人の雇用を維持して1億稼ぐという企業も評価して良いはず.
  • 資産を子会社に売却して,子会社は証券を発行することで,固定資産を証券化できる.このような企業をSpecial Purpose Corporationという.固定資産が現金化でき,負債を減らすこともできる.バブルの頃は土地神話に基づく「持つ経営」だったが,今は「持たざる経営」に移行している.
  • 本来,会計はキャッシュフローのような「小遣い帳」のような会計だった.しかし,大恐慌からより会社の状態を表すために,利益の計算という概念が生まれた.
  • C/SP/Lの違いは「支出をどの期間に費用化するか」というタイムラグが影響している.P/Lは期間配分された結果,C/Sは生の「支出・収入」の結果といえる.
  • 特別利益と特別損失の増加で,経常利益は余り信用できない.営業利益と当期純利益が重要
  • 営業キャッシュフローがプラスで投資キャッシュフローと財務キャッシュフローがマイナスになっているのが,優良企業.つまり,通常の営業で得た収入を投資と借入の返却に割り当てている.
  • 営業キャッシュフローと財務キャッシュフローがプラスで,投資キャッシュフローがマイナスの場合は,借入を行って投資を行っている,攻めの経営をしている
  • 営業キャッシュフローと投資キャッシュフローがプラスで財務がマイナスの場合は投資ができず,借入の返済が最優先になっている,極めて状況が苦しい経営であることがわかる.
  • 営業キャッシュフローが小さくなると,本業では稼げていないことになり,極めて厳しい.とにかく営業キャッシュフローが大切である

実学入門 不景気に効く会計(クスリ)―会社の問題をみつける財務会計編

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