「これがニーチェだ」

これがニーチェだ (講談社現代新書)

これがニーチェだ (講談社現代新書)

どちらも、ニーチェを扱っているが、対極的な本。(比べて読むと、思ったほど対極ではないような気もするが)それぞれの学者が論争したことでも有名である。私がずっと昔に買っていた本を実家に帰ったときについ読み始めてやめられなくなってしまった。
大きな違いは思想というものに対するアプローチの違い。簡単に言うと、思想は役に立つか立たないのかということ。もちろん、この「役に立つ」ということの意味もあいまいである。
下の本はニーチェは役に立たないという。立たないが、それゆえにすばらしい、とも語る。ここでいう「役に立たない」は「無駄」とか「平凡」、「冗長」という意味ではないはずであり、ようするに「社会とって役に立たない」であるとか、「人がよりよく生きていく上で役に立たない」ということだろう。
ニーチェの思想は、非常に反社会的で反倫理的ではある。彼の思想に従って生きてしまうと、とんでもない社会になってしまうだろう。だから、「役には立たない」。しかし、彼が言うことには真実が含まれている。つまり、社会をよりよく構成していく上でみんながついていることはほぼ嘘であるということを。
上の本は、逆に「マルクス主義」など近代の思想が陥った奇妙な社会に対する告発の道具としてニーチェという思想を使う。個人的には「戦後民主主義教育」というものに接してきた私には痛感させられる。
また、ポスト・モダンとよばれる思想に対する批判もある。思想がたんなる戯れ?に陥って、現代の人々にとっての魅力を失いつつあるという。
下の本よりも多義的でなく、ストレートな文体なので著者の意図がわかりやすい点もいいところ。
個人的にどちらの本が好きかといわれると、いまは下の本。アマゾンでは少したたかれているみたいだし、あきらかに上の本を意識しすぎていて、解釈を狭めているような気がするが、個人的にいろいろ思う文章が多くて刺激を多く受けた。
とくにニーチェ自身の思想がニーチェの批判の第一に当たる、つまりニーチェの好きな人は実は最もニーチェによって批判されうるのではないかという指摘がとても好きだ。