いわゆる甘粕事件と,その後の満州国における彼の謀略について詳しく知りたくなり,買ってみた.
この本では,著者の真摯な姿勢が良く現れていて,感心する.例えば,甘粕事件が冤罪であるということについて,ついに最後まで断定しなかった.もちろん膨大な証言を紹介はしているのだが,確実なことは結局わからなかった,としている.
ただ,そのせいか全体の話の流れが淀みがちで,彼本人に関わる話から離れることもしばしば見られた.それは,彼がフランスへ行き,さらに満州国で謀略の日々に明け暮れる時も同様である.断片的には彼の行動がとらえられるのだが,結局,よくわからないことが多い.
彼の行動や心理がはっきりとらえられ,話がスムーズに進み始めるのは,彼の最後の仕事となる満洲映画協会(満映)の理事長に就任してからである.ここからは様々な人との関わりがあったせいか,彼の極端な几帳面さや,公正さに対するこだわり,美辞麗句に対する嫌悪,などがさまざまな証言とエピソードにより示されている.
そして,彼は満州人に慕われるような人柄であったが,結局,根本は「満州国は分家である」という考えに捕らわれていたということを,著者は冷たく(しかし,同情も込めてだが),評価している.
彼にまつわる話で絡んでくるのが石原完爾と,東條英機である.石原は満州事変の頃の同志,東條は陸大での先輩後輩関係に当たり,とくに東條から相当気に入られたという話がでてくる.
この三人の関係をもっと詳しく知りたいのだが,それは別の本を当たるべきなのだろう.
補遺にあるように,関東大震災当時の中国人労働者虐殺について*1,詳しく書かれている*2.最近はこういうのを強調すると反日的とか言われるのかもしれないが,繰り返してはならない教訓として,私たちは学ばなければいけないことには違いない.中国では,大震災後,日本を救おうという世論が起きたにもかかわらず,この事件のせいで,一気に反日行動を巻き起こしてしまったという,悲しい話も知った.
- 作者: 角田房子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/02/09
- メディア: 文庫
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