野中広務 差別と権力

前々から読みたかった本.時間があったので一気に読んでしまった.彼の生い立ちから政治の暗闘までが書かれている.同和地区でも反体制的な派と,体制的な派があり,彼の出身は体制に対して融和的な方だったことや,彼が元々は蜷川革新府政の片腕と称されたこともあったことなど,非常に興味深い事実がおおい.
彼は自民党の中でもより福祉国家的な「大きな政府」指向であり,弱者に対する視点などを持った政治家でもあった.だから,社会党との連立も可能だったのである.イデオロギー的なこだわりが少ない政治家であり,公明党共産党に対するアレルギーすらなかったともいえ*1,党内における調停者として重要な位置を占めていく.
しかし,その後に現れた小泉構造改革は,効率化を重視する「小さな政府」指向であり,いわばそれまでのグランドデザインの大幅な転換であった.彼の調停者としてのいわゆる根回し政治は,郵政民営化にみられるように,軽視されていく.
小泉首相と相反する考えをもつ彼はいわば「抵抗勢力」になるのだろうが,小泉構造改革はいわば優勝劣敗を徹底させる競争原理の導入による効率化である以上,「弱者の視点」を持った彼とは相容れなかったのだろう.「談合」も弱小企業を生き延びさせてしまうという面で,悪であり,一方で善なのである.


野中広務 差別と権力

野中広務 差別と権力

*1:彼の防衛に対する発言を見れば,むしろ自民党の主張よりは公明党共産党の主張に近いことがわかる