Neutral is not advocacy

「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンのCFがスカパーでやっていたので,つられてページ(http://www.hottokenai.jp/)を見てみた.
感想としては,ひとこでいえばわかりにくい.何にどう使われるのかということが,まだはっきりしていないような印象を受ける.政策提言をするために組織に金を出すといっているが,逆じゃないだろうか.もっとより具体的な政策提言があってから,金を集めた方がいい.
ところで,このキャンペーンのお金の行き先はNGO団体などに寄付されるらしいが,どのような額をどういう基準で配賦するのかが全然わからない.ネットではこのNGO団体の中に左翼的な団体があるとして批判する向きもあるとのことだが,まぁ,どこに何パーセント行くのかがはっきりしていたら,それはそれでいいと思う.しかし,CFでは一切そういうことは述べられていないし,有名人達が,貧しさを何とかしなければいけない,といっているにすぎない.ホワイトバンドの売上金のほとんどはホワイトバンドの製造コストだそうだから,募金という面でもあまりメリットがあるようにも思えない.
ところで,私が一番興味を持ったのはCFでも主張していた「貿易を公正なルールで行う」という点.一体何のことを言っているのか興味を持ったのだが,その答えらしきものが,これ.(メニューの「貧困の理解」から「まずしさの根源」を選び,その中の「貿易問題」という章より抜粋)

今日貧困をもたらしている大きな原因は、途上国の農業が立ち行かなくなっていることです。第一に、熱帯性農産品の価格がもともと安い上に変動も激しく、きわめて不安定であること、第二に、途上国より安い農産品が先進国から輸入されるようになったこと、によります。前者については、かつて試みられた「一次産品安定化基金」のような措置をWTOの外につくり、熱帯性農産品の価格安定を図らなければなりません。農産品については、もともと途上国の方が比較優位にあったにもかかわらず、欧州や米国が輸出補助金や貿易につながる国内補助金をつぎこみ、農産品を非常に安くすることができたからです。いわば欧州や米国は農産品をダンピング(不当廉売)しているのです。

確かにその通りなのだが(とはいえ,途上国が比較優位なのは為替レートが原因であり,途上国より安い農産品が先進国から輸入されるのは,補助金によるダンピングがすべての原因なのか?),この人達は本気でこれを批判するつもりなのだろうか?さらにつづく.

その農業補助金ですが、先進国は1日あたり10億ドルを費やしています。世界の政府開発援助(ODA)総額の5倍にも上ります。
 ところで、WTO(世界貿易機関)ではダンピングは違反です。しかし、欧州や米国は政治力をもって農業交渉を本来の自由化ルールにしてしまったという経過があります。
 このように、途上国の農業を破壊し、貧困を増幅させている欧州や米国の農業への補助金は直ちに撤廃されるべきです。つまり、貿易の公正化が求められています。途上国の農業が再建され、生産者が保護されるならば、貧困問題は半ば解消できたといっても過言ではありません。

ここでいう補助金とは輸出補助金のことである.先進国は国内でダブつく農産物を輸出するため,輸出のための補助金をだしている.この補助金により農産物の市場価格が下がってしまうことが,途上国にとって不利益なのである.もちろん,補助金をなくせば,先進国の農業はコストが高いため,競争力を失い,少なからずダメージを受けることだろう.
まるで,他人事のようだが,途上国の農業を再建し,生産者を保護し,より「公正な」ルールにするなら,日本も農産物に対する関税を一切廃止し,途上国からの輸入に依存するようにすればよい.そうすれば,需要そのものが増加するため,途上国の生産を刺激し,価格も上昇する.よって,貧困問題はさらに解決するだろう.しかし,ほんとうにそれで先進国の人たちの共感を得ることができるのだろうか?つまり,途上国の人たちの貧困をなくすことは,私たちも少なからず不利益を被ることになる.その不利益をどこまで許容できるかどうか,というのが問題なのだ.それがまったく語られていない.まるでアメリカやヨーロッパが悪くて,彼らの自国本位の考え方を変えればなんとかなるように思える.途上国も「公正なルール」を適用し,関税をなくすように働きかけられれば,すぐに輸入超過に陥ってしまうだろう.だから,途上国ですら「公正なルール」が必要なのではなくて,先進国への輸出の増加が必要なのである.
私は,政策提言などを行うよりも,やはり緊急的な援助のために食料を送ったり,教育水準を上げるための教育設備の向上のためにお金を使う方がよいと思う.その方が,先進国の人たちの共感を得やすく,まだ納得できる形になるはずだ.
貧困の問題を話題にしたということで,このキャンペーンはそれなりに評価できるかもしれない.しかし,このキャンペーンはあまりに物事を簡単にしすぎているように思う.何を政策提言するつもりなのかわからないのに,ホワイトバンドをするなんて,私には理解できない.