飯田泰之著「ダメな議論」を読む.簡単に言うと,徹底的に左脳で考えていくと,世の中はあやしい説がいっぱいあるよというようなことを言っている本.この本では以下のようなチェックポイント(私が少しわかりやすく書き換えている)を示し,「ダメな議論」を判別できるという.
- 定義があいまいでないか
- 反証不可能でないか
- 難解な理論を都合良く使っていないか
- 反証となるデータが存在しないか
- 比喩とたとえ話を一般化していないか
どちらかといえば,「ダメな議論」というよりは「駄目な論文」のチェックポイントだと思う.確かに感情面をできる限り削いで,純粋に論理的な展開を考えれば,こうなるのだろう.ただ,「ダメな議論」が要求されるのは,上記のようなポイントを満たす説を作ることができないような場合ではないだろうか.
例えば,「少年犯罪は厳罰化するか,それとも教育に中心をおくべきか」という議論について,論理的に話を進めることはできない.可能なのは,例えば「少年犯罪の厳罰化は過去(あるいは別の地域で),効果があったかどうか」というようなことである.しかし,たとえ「過去の統計より少年犯罪の厳罰化は効果があった」という結論が出たとしても,それはあくまでも「過去の一時期の統計」の話であり,それをそのまま未来に適用できるかどうか,ということは別問題である.また,別のやり方をすれば,教育中心でも十分効果があるかもしれない.そして,仮に「少年犯罪の厳罰化に効果があった」としても,「少年犯罪は厳罰化するか,それとも教育に中心をおくべきか」という議論はまた別の話だということもいえなくはない.結局は,そういう議論はその場の「空気」によって共有される気分でどちらかが決定され,その結論に対して援用可能な理論を作るのではないだろうか?
とはいえ,明らかに誤った「あやしい言説」を元に議論をしていることも多いことは,この本でも例示されている.人が,このような「あやしい言説」を簡単に信じてしまうのは,上記のようなチェックポイントを検討するほど,あまり興味がないか,面倒なだけなのだろう.なんとなく,周りが信じているから信じるというのは,わりと正しい事が多い*1.また,自分にとって危機的な状況に陥るものを信じやすいというのは,一種のリスク低減行動であるともいえ,それなりに合理性はある.
だが,そういう態度でいると,たまに足をすくわれてしまうのが,今の社会である.だからこそ,楽しいんだけど.
- 作者: 飯田泰之
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/11
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*1:明確なデータはありませんが,たいていの常識は本当の常識であることが多いはずです