二面性

例の田母神論文の話で勘違いする人がいるみたいなので、付け加えておく。何も、彼が言っていることをすべて批判しているつもりはない。むしろある意味正しい。
私が言いたいのは、それはたとえばアメリカが原爆を日本に落としたことを正当化するのと同じ理屈だよといたいだけ。
田母神氏が、歴史の二面性〔勝者の視点と敗者の視点)を話しているのなら、私はむしろ支持したい。確かに戦後民主主義教育は勝者の視点だけでものをはなすから。でも、彼の理論を主張するのが「まっとうな日本人」であり、主張しないやつは「売国奴」だという視点を感じるのが、嫌なのだ。
もうひとつ。田母神氏の論文はコミンテルンへの単なる責任転嫁だ。そうじゃない。ナチスドイツへの「バスに乗り遅れるな」視点が亡国寸前の状態を招いたのだ。ようするに調子に乗りすぎたのだ。様々な人が〔天皇も含め)、ナチスへの傾斜について危機感を感じていたのにもかかわらず。
私が田母神論文を批判したいのは、彼の思想が単に嫌いなのではなく、その主張が対立した考えを持つ人の共感を全く得ないばかりか、しょうもない陰謀論にまどわされているからだ。
もっと、たとえば東条英機が何を思っていたのか、それを書いてほしかった。彼は今の政治家みたいに、保身だけを考え〔今の特権的な地位を維持すること)ていたわけではない。私欲にまみれていたわけではないし、誰よりも日本のことを考えていたと思っていたからこそ、対立した考えを持っていた人間を弾圧したのだと言うことを述べてほしかった。東条は決して悪魔なんかじゃない。只の殺人者でもない。だからこそ、私たちが学ばなければならない部分があると思うのだ。時に善意が残虐と亡国を導くことを。