ブレることは正しい

民主党が圧勝した。
木曜日にBS11で石破農水大臣が話を以下のような話をしていたのが印象に残った。

  • 民主党は小沢さんを中心とした自民党田中派的な選挙をおこなったが、自民党はどちらかといえば民主党的な党首頼みの選挙を行ってしまった。そのため、党首を次々に代える愚を犯し、国民から見放された。
  • 自民党の政策がおかしかったとは思わない。
  • 小泉さんで大勝したように思えたが、そのときには地方の組織が壊れ始めていた。大敗は組織を軽視した結果であり、小泉さんの時に危機感を持っていた人は当選している。
  • 自民党民主党も理念などない。日本はイデオロギーに凝り固まった党よりも、右も左もいる政党の方が受け入れられる。
  • 自民党民主党に政策に違いはほとんどない。民主党マニフェストでいろいろいっているようだが、現実的に政策を実施していけば、自民党がやっていた政策と同じような形になっていくだろう。(イギリス労働党のブレアがブッシュと懇意だったように)

驚いたのは、党には理念もなければ、政策に違いもないと言っていることである。確かに、どちらもよく似た党である。所属議員には右から左までいろいろいる。ただ、民主党の方がより右と左の幅が広く、自民党は幅がやや狭いという違いはある。「民主党は、どこに国を持っていこうかという思想がはっきりしない」と細田幹事長は主張していたが、その主張は国民にはあまり効果的でなかったようだ。
自民党の旧綱領には、以下の通りある。

一、わが党は、民主主義の理念を基調として諸般の制度、機構を刷新改善し、文化的民主国家の完成を期する。
一、わが党は、平和と自由を希求する人類普遍の正義に立脚して、国際関係を是正し、調整し、自主独立の完成を期する。
一、わが党は、公共の福祉を規範とし、個人の創意と企業の自由を基底とする経済の総合計画を策定実施し、民生の安定と福祉国家の完成を期する。

まるで、社会民主党の綱領のようだ。とくに、計画経済??福祉国家??というのは、驚きである。つまり、理念としては当時の社会党と差がなかったわけである。ただ、当時の社会党との差は、とくにイデオロギーがなかったことと、現実に日本の舵取りをしなければいけなかったことだけなのだ。
ところが、小泉さんの登場で、自民党は変わってしまった。自民党の旧田中派系は衰退し、一方で旧福田派系が台頭した。ここで自民党は右と左の幅が狭くなり、より純化された。以下のように綱領も変わった(項目だけ抜粋)。

新しい憲法の制定を
高い志をもった日本人を
小さな政府を
持続可能な社会保障制度の確立を
世界一、安心・安全な社会を
食糧・エネルギーの安定的確保を
知と技で国際競争力の強化を
循環型社会の構築を
男女がともに支え合う社会を
生きがいとうるおいのある生活を

さて、一方の民主党には、綱領はない。基本理念というのがあり、「私たちが目指すもの」というのがあるが、こんな感じだ。

第1に、透明・公平・公正なルールにもとづく社会をめざします。
第2に、経済社会においては市場原理を徹底する一方で、あらゆる人々に安心・安全を保障し、公平な機会の均等を保障する、共生社会の実現をめざします。
第3に、中央集権的な政府を「市民へ・市場へ・地方へ」との視点で分権社会へ再構築し、共同参画社会をめざします。
第4に、「国民主権基本的人権の尊重・平和主義」という憲法の基本精神をさらに具現化します。
第5に、地球社会の一員として、自立と共生の友愛精神に基づいた国際関係を確立し、信頼される国をめざします。

これは、たいていの党であれば、受け入れられる内容だろう。たぶん、第4を改憲に代えれば、自民党でもたぶん異論はないはずだ。つまり、理念にあまり重視していないことの現れである。ようするに、民主党は新しく見えるが、実はむしろ古い自民党の体質そのものを持った党なのだ。
一方、自民党は理念を明確にし(つまり他の党との差を明確にし)、比較的わかりやすい党になった。そして、その理念で支持を得られると考えていた。だが、国民はそんな理念はあまり問題でなく、むしろ、その場その場の空気(国民が持っている雰囲気)をうまくすくい上げられる方を支持したのだろう。
麻生首相は、民主党の政策をバラマキであると批判をしていたが、タイミングの悪いことに景気が悪化し、周りの声ももあり、経済対策という名のバラマキをせざるを得なくなってしまった。このため、小さな政府=財政に規律をという主張と違うことをしなければならなくなった。つまり、ブレてしまったわけである。これで麻生首相は批判されたが、自分の理念を翻して現実に対応したと言うことは、私は評価したい。理念にこだわりすぎて現実を直視できない人が政権を担当すれば、それは破滅を招くと思うからだ*1
ただ、理念がなければ、ブレることもなかったのだ。だから、与党としては理念がない方が安定して支持を受けられやすいのではないか。そして、それをまさに民主党に浸透させたのが、小沢さんなのだろう。岡田さんや前原さんではできなかったと思う。理念ある政党は野党にならなければ不可能ではないだろうか?

*1:いつかの戦争のように