死なう団事件 軍国主義化のカルト教団

非常に面白かった本で,一気に読んでしまう.教科書では絶対に教えない歴史であろう(教えてもあまり意味はないかもしれないけど).
二人の男が,国会議事堂の前で「死のう,死のう」と叫びながら,小刀で腹を切ったという奇妙な事件である.実はこの小刀というところが重要で,教祖の考えがよく現れていると思うのだが,残念なことにこういう部分は無視され,後世の人たちはやたらと不気味な事件であるとしか認識されていない.
そもそもこの教団は「日蓮会」という既存の日蓮宗を批判した一種の信徒団体だった(日蓮と昭和初期の思想との関わりは,やはり無視できないくらい広がりを見せている).だが,教祖のカリスマ性があまりにあったため,信者達は盲目的に彼に追従していく.とくに,所得の低い労働者にその傾向が見られ,それを感じ取ったインテリ層は,逆に距離を取り始めていく.
教祖は日蓮に習い,独身であったが,信者に隠れて女性と関係を持ってしまったことが,暴露され,急激に信徒を失っていく.
ここから転落が始まる.世の中は血盟団事件など日蓮系の諸教団がテロを繰り返していた.官憲は同様のテロ行為に目を光らせていた.そこにまるで飛んで日にいる夏の虫のように,彼らははまっていく.そして,先の見えない官憲との戦いに入っていくことになる.
この本は,私が生まれた頃に出版されたもので,当時の全共闘運動との絡みもあり,多く読まれたらしい.しかし,それが今になって注目されてきたのはやはりオウム事件であろう.そのせいか,文庫になってタイトルに「カルト」の文字が入るようになった.
確かに,これはカルトには違いない.教祖の命令なら人でも殺すと信者達は言っていた.だが,この教祖は決して人を殺す命令を出さなかった.テロについても批判的で,小刀を使ったと言うことは,死ぬということに最後まで抵抗を見せていた.が,結局は破滅していく.それは補遺にも載せられているのだが,どうやら,彼は教団の勢いを回復するために大ばくちを打って失敗したということのようだ.
官憲(とくに特高警察)のすざまじい拷問はかえって反社会的な人間を生んだという.ここでも一人の女性が精神的におかしくなっている.警察はどうも自分がとても偉い人間であるかのように錯覚してしまい,何をしても良いと考えていたのだろう.
オウムにも,当時の新左翼の各セクトとも共通している部分があると思う.もちろん,私が知っていることはどちらに関しても新聞から得ている情報の域をでていない.だが,いま,彼らの手記等を読むと,より彼らの心理に近づけるのでないかと思う.
逆に,今ひとつわからないのは「暗い日曜日」などがはやるなど,当時の世相の感覚である.その世相が彼らを生んだといえると思うのだが,それが今ひとつ感じることができない.私たちがあまりにいい時代に生きているというのかもしれないが,だとしたらなぜオウムが生まれたのか?なぜ自殺者がたくさん発生しているのか?