BSドキュメンタリー アフリカ2005

アフリカの現状と超大国,とくにアメリカとの関係を描いた番組.ここでは,スーダンとナイジェリア,南アフリカの現状が取り上げられている.
スーダンは北部に住むイスラム教徒と南部に住むキリスト教の内戦が続いていたが,南部に原油が産出することがわかり,アメリカや中国が内戦に介入.先進国からの富について無視できない両陣営はいったん休戦を余儀なくされる.しかし,西部に住むダルフール地区は政府軍が支援するアラブ系民兵によって村が焼かれ,アフリカ系住民に対する虐殺が行われている.しかし,このダルフール地区には資源が何もないため,スーダン政府とのつながりの深い先進国(とくに中国)はこれを「ジェノサイド」であると認めようとしない.現在は,AUアフリカ連合)が軍隊を派遣しているが,絶対な兵力差からすべてをカバーすることはできず,虐殺は今もなお続いているという.
ナイジェリアは原油の産出がいたるところで見られるため,先進国とのつながりが深いが,前政権による汚職のためオイルマネーがすべて政府高官の懐に入り,国家全体の貧困は全く解消されていなかった.そのため,産出地域の近くに住む住民はこれを不満として立ち上がり,武器を手にし始めた.大統領はアフリカの中における希望として,外資の積極的な導入による貧困の解消を呼びかけているが,貧しさの中にある民衆の怒りは収まってはいない.
南アフリカ外資による自動車産業なども盛んなアフリカ第一の先進国なのだが,失業率も高く,貧富の差は激しい.さらに,大きな影を落としているのが,エイズの蔓延である.現在,エイズは薬によってその進行を止めることができるのだが,その薬価が非常に高い.高い理由は特許料によるものだが,第三世界ではこれに対抗するため,生産方法を少しだけ変えただけのコピー薬を生成し,販売することで,エイズを低価格で治療できるようにしている.南アフリカ政府もそれを行おうとしたのだが,アメリカはFTA自由貿易協定)の加盟による貿易拡大と引き替えに知的財産の保護を求めた.結局,南アフリカは高度経済成長を続けることができたが,同時にエイズの蔓延はまだ収まっていない.
これらの事実を日本の人々はどのくらい知っているのだろうか?私は南アフリカの件については少し知っていたが,他についてはほとんど知らなかった.こういう事実を知ってしまうと,イラクにおけるアメリカの軍事介入の口実はあまりにむなしいものだ.イラクの住民を解放することよりもスーダンの住民の解放の方が,より緊急であることは言うまでもない.アメリカは石油がない限りは,アメリカ兵の命はアフリカ原住民の命よりも数千倍も重いと考えているようだ.石油などの資源を持たない地域にするアフリカ人が何人殺されようと「ジェノサイド」にはあたらないらしい.ある意味で国益重視の冷酷な選択だと思うが,しかたがないことかもしれない.ただ,そういうダブルスタンダードが通ってしまう国連はもはや機能していないといえる.
また,自衛隊をこの国に派遣することにはかなり議論があるかもしれない.イラクへの派遣に比べれば,何倍も現地の人に必要とはされているだろうが,何倍も危険である.ジェノサイドが起こっていても,あくまでも経済的な封鎖だけを行うべきであり,傍観すべきだという意見が正しいのか,それとも,積極的に介入して人の命を救うべきだとする意見が正しいのかは議論がわかれそうだ.(ルワンダ内戦も含めて,いわゆる「護憲派」とよばれる人にこれについてどう考えるのか,意見を聞いてみたい)
日本は自衛隊の駐留期限を延長するつもりのようだ.確かに,現地からは必要とされているのかもしれないし,駐留期限を延ばすことは人道的には正しいことかもしれない.しかし,この嘘で塗り固められたイラク戦争そのものに対して何の異論も挟まない政府を見ていると,自衛隊は米軍の一部に組み込まれてしまったのかとすら思えてしまう.