ヒトラー 最期の12日間

昨日買ってきた本.同名の映画が見たいのだが,金沢では見られないとのことで,買うことに.しかし,この本はあくまでも,映画の原作の一つにしかすぎず,ヒトラーだけでなく,ヒトラーを含めた側近達の記述も多い.
また,この本が異例なのは「はじめに」と2章,4章など,偶数章が著者の分析でしめられ,奇数章は物語形式で書かれているという点だろう.こういう構成は,ドイツではよくみられるのか?
さて,内容はヒトラーと側近達の異様な妄想と,実戦部隊の指揮官の悪戦苦闘である.どの国も末期的な状態になるとこうなってしまうのだろうか.三国志の蜀の国が滅ぶ直前の状態を思い出す.現実を直視しない根拠のない占星術にはまり,おべっかばかりを使う側近に踊らされ,凶報ばかり相次ぐ報告に神経をすり減らし,最後は酒と女色におぼれ*1,規律はゆるみきっていたなど.
ヒトラーはこういう状況になったことを,ひたすら国民や軍隊のふがいなさに求め,癇癪を絶え間なく起こしていたようである.側近も同様で,ヒトラーの無茶な命令をそのまま何も考えずに現場の指揮官に伝え,滅亡を早めた.
さすがに昭和天皇はこうでなかったと思いたいが(現実はどうだったが知らんが),ベルリンで起きたような,日本の空襲のレベルを遙かに上回る大規模な破壊と人命の損失をもたらした殺戮と略奪の嵐を避けたという意味では,ヒトラーに比べればかなりまともな思考能力が残っていたといえるだろう.
ヒトラーは戦争に負けるような民族はもはや生きる価値などないとして,ネロ命令という焦土作戦を展開した.ドイツ国民が奴隷民族に転落するくらいなら死を選ぶべきだという.よって,絶対に降伏を認めず,自裁を選ぶように進めた.このあたりは当時の日本人的な倫理観に近いものがある.最後まで戦争完遂を求めた軍人も同様の意見があったようだ.
この本には一章分解説があり,ドイツ人のヒトラーに対する扱いの変化や,著者の過去の著作の紹介,およびこの本に対する批評などが載っている.この部分は非常に興味深い.ドイツ人にとって,やはりヒトラーは避けて通れない問題であり,その扱いに対する論争というのは絶えないようだ.その扱いも年々変化し,ホロコーストの問題を含め,「歴史の克服」が行われているようだ.そして,ドイツ国内で大きな議論となっている.
とくに,ナチスの視点からとったという同名の映画はイスラエルから反発を受けているようだ.しかし,人間にすぎないヒトラーは,悪魔のようではあったが悪魔ではなかった.だから,どこか私たちはヒトラー的なものをどこか持っていないだろうか?そうすれば,ヒトラーが何を考え,どう行動したかを知ることができ,あらたなヒトラーを発見する大きな手がかりになると思う.

「我々は攻撃されていると宣伝し、 愛国心に欠け国を危険に曝していると平和主義者を糾弾するだけでよい。」

ゲーリングの言葉らしいが,どこかで聞いたようなはなしである.

ヒトラー 最期の12日間

ヒトラー 最期の12日間

*1:ヒトラーはそうでもなかったようだが,やたたらとケーキばかり食べていたらしい