セブン・イレブンの仕事術

セブン-イレブンの仕事術

セブン-イレブンの仕事術

この本は、セブンイレブンを明確に批判した本ではない。むしろ、そのビジネススタイルを称揚さえしている。しかし、その内容はあまりにも厳しい。まるでフルメタル・ジャケットのようだ。セブンイレブンに入社しなくてよかったと思う。
特に悲惨なのは、新店舗を立ち上げるときの話だ。あまりの激務で著者は目が黄色くなり、オーナーの奥さんは流産してしまう。その過酷さを隠さず書いている。この本は、暗黙的な批判の書なのかもしれない。
著者は「いわもとQ」という立ち食いそばチェーンの社長さんである。このそばやさんの「ありえなさ」が気になったので、手にしたが、予想以上の内容だった。
セブンイレブンの社員は、実はコンサルタントである。各セブンイレブンのオーナーさんに対して、店舗の改善指導などを行う。この指導が極めて高いロイヤリティの根拠になり、セブンイレブンの収益源となっている。そのような高いロイヤリティがあるということは、各社員はそれに応じた利益を上げなければならない。
各社員は「単品管理」を合い言葉に、具体的な1商品を手がかりにして、売り上げに対する仮説を立てて発注を行い、POSで実際の売り上げをみて検証を行い、さらに仮説を進化させる。セブンイレブン側はこの際に機会損失を徹底的に嫌う。なぜなら、その分の売り上げが落ち、商品を卸しているセブンイレブン本体の収益が落ちるからである。しかし、FC側はむしろ機会損失よりも廃棄損失を恐れる。廃棄損はFC側の負担となるからだ。
よって、各社員は「XXXXをもっと仕入れましょう」とか「XXXXXXの商品を切らしましたね」と店長にいう。一方で、店舗側は「そんなの売れないから仕入れない」となる。そのため、社員は徹底的にPOSの数字を眺め、それを根拠に店舗側を説得する。だが、もちろん、各社員は廃棄損を多く出してしまうような発注を勧めると店舗側の信用を失う。一方的にセブンイレブン側が儲かるだけではだめで、そういう意味ではよくできている。
では、だめな社員はどういうタイプか?それは、人間味だけで勝負するタイプだという。優しくて思いやりがある人は、結局人を説得できない。一方、できるタイプは、数字に強く、客観的な思考ができるタイプらしい。馴れ合いになってはいけないということだろう。
例えば、このような例がある。セブンイレブンでは店舗の清潔さは、その店舗の開店当時と比較して同じなら○がもらえる。それ以外なら×である。社員はそれを判断するのだが、優しい人や思いやりがある人は×をつけることにためらいを感じるはずだ。×をつければ、店長は怒るかもしれない。ただ、×をつけなければ、いつまでたっても改善されないだろう。よって、気になる点があれば容赦なく×をつけるのだが、今度は絶対にその根拠を書かなければならない。そうしなければ、誰もそのアドバイスなど聞く耳を持たないだろう。そこで、社員は床を手でなでる。そうして真っ黒になった手を店長に見せて、これが×の根拠だと示すという。
セブンイレブンの店舗を改めてみるといろいろ気づかされる。床をみればぴかぴかになっている。蛍光灯の明るさひとつとっても、他のチェーンよりも明るさが全然違う*1。店舗にとって明るさは生命線といってよい。明るいだけで人は引き寄せられるものだ。商品もそれだけで魅力的に見える。
セブンイレブンが勝ち組なのは当たり前だということが、この本を読めばわかる。だが、こんな職場で働きたいとは思わない。確かに、会社は「勝つためのメソッド」を持っており、それが実践できている。でも、それは社員とFC店の店長やオーナーの犠牲的ながんばりに支えられているのだ。そんながんばりがいつまでも続くとは思えない。特に私には。他の人はこの本を読んでセブンイレブンで働きたいと思うのだろうか?
だが、コンサルタントとは、こういう仕事なのだ。自分の考えがあれば、顧客に嫌われても主張する。顧客のご機嫌取りになって、相手の考えに常に流されてしまうと、存在意義がない。顧客を説得するためには、当然顧客よりの違う部分で優れた能力を示さなければならない。
例えば、システムを提案したら、顧客は「そんなやりかたでは運用できない」「XXXというデータが頻繁に起きるからダメ」というかもしれない。そんな場合にでも、「なぜ運用できないのか?」「どのくらいそのデータは起きるのか」というような観点からどんどん突っ込んでいかなくてはならない。顧客のいっていることは客観的な視点から見て、正しいのか?そのためには、十分な準備とその業務に関する知識そして、自分の意見が正しいと主張できる自信が必要となるだろう。
コンサルタントって、ずいぶんきつい仕事を選んだものだと、この本を読んで改めて思った。
ちなみに、著者はセブンイレブンにつとめる前は私と同業だったという。なにか他人事には思えない。

*1:栄のセブンイレブンとローソンを比べるとよい