最後の海軍大将・井上成美 文春文庫 (ISBN:4167392011)

海軍の良識派とよばれた人の中でも最も急進的といわれる人の伝記。最後までアメリカとの戦争に反対した希少な軍人である。戦後は隠棲し、英語塾などを開いたものの、清貧を貫いた。
この人のことは阿川弘之の伝記でも読んでいたのだが、他の軍人の生涯とはあまりに異質なものだったため、個人的には深い感銘を受けた。で、別の作家の視点からの伝記ということで、また一気に読んでしまった。
一番心に残ったのは「良寛さま」のお話を、英語塾の生徒達に教えてやる場面だった。良寛さまは決して自己の栄達を望まず、人のために尽くした。人の価値とは決して立身出世ではないのだと。
つまり、暗に日本の戦争指導者達が軍部の特権を利用して政治を動かし、地位の保身にばかり考えて、日本を破滅寸前においやったと、彼は考えていたのだろう。この考えは、ガダルカナルの戦いや他の戦いなどの指導者達のあまりの無責任さを考えると、正鵠を得ていると思う。
天皇のため」だの「国のため」だのといろいろいっていたが、結局、自分の都合の良いように利用していただけではないのか?
彼は、自分が正しいと思ったことは毅然と言い放った。それは自分のためではなく、国のためだと思ったからだ。そして、そのことによって降格されたり、追放されたりするかもしれないが、その覚悟を持たなければ、それはただの保身に過ぎないという。当時の指導者達はもう勝つ見込みがないのに、それを言い出せなかったのは、結局そういう個人的な理由だけだったのではないか?と。
これは、今の会社という組織でも全く同じことがいえると、思った。