田中角栄失脚

私は1972年生まれなのだが,この年,総理大臣になったのが田中角栄である.ということは,この人がどんな総理大臣だったのか,どうして失脚したのかということについてはほとんど知らない.知っているのは,ロッキード事件の被告として辛そうな顔をしている場面くらいで,その人の持つ凄さを実感したことはない.
この本は,田中角栄と,彼に(ある意味で,その魅力に)惹きつけられたジャーナリストの戦いを書いた本である.田中政治がどのようなものなのかはつっこまれてはいないが,以前読んだ野中さんの本を合わせて読むと,その類似性がよくわかり,日本の戦後保守政治の一つの形がよくわかる.*1

政治とは対立する欲望を調停することである

一番驚いたことは,立花隆児玉隆也らが書いた文春の記事は,外国人記者が話題にするまで問題にならなかったことだ.外国人に何か言われなければ,腰が引けて何もできないという日本人の体質はここでも顕わになっている.
一方で,ジャーナリストの動きについても著者は並行して描いている.特に印象に残るのは,立花隆の仕事,ではなく,児玉隆也の人となりである.立花の方は,いわば資料を徹底的に集め分析をするというやり方であり,人海戦術を使った大規模なものであったという.だからというわけではないが,あまり印象に残るものではない.
こんな言い方は極端だが,高学歴な立花隆による田中批判はいわば田中のライバルでもある福田赳夫を含めたエリート層からの逆襲であると読めてしまう.ただ,児玉隆也が取り組んだ,「悲しき越山会の女王」は権力の陰にいる一人の女性の物語であり,社会に対するインパクトは全くなかったかもしれないが,今の私にはむしろ非常に興味深い.最近では無念は力という本も出版されているようで,本編を含め是非読んでみたい

田中角栄失脚 (文春新書)

田中角栄失脚 (文春新書)

*1:そして,おそらくその形は,今の自民党ではなくむしろ民主党にいる人たちに継承されているともいえる.自民党における旧田中派は没落し,逆に小沢さんに代表される民主党の方がまだ勢力がある.また,造反議員の一人,綿貫さんも旧田中派である.