アンソニー・ギデンズ 「暴走する世界」(ISBN:4478190437)

再読である。ギデンズはイギリスのブレア政権のブレーンとして有名で、かつ私の前の専門としていた「社会学」の権威でもある。これを「経済学とは何だろうか」(ISBN:4004201829)で有名な佐和隆光先生が訳している。先生もあとがきで述べるようにギデンズは経済学についてもかなり造詣が深いようで、この本にも経済に関する話題が(かなり少ないが)でてくる。
タイトルの「暴走する世界」とはいわゆる旧来の左翼が主張していた国家による管理というものの対極を示している。つまり、社会制度が発展することにより、国家*1による最適なコントロールで社会が成立すると思われていたが*2、実際は逆に国家のコントロールが徐々に失われ、最近では手がつけられなくなっているという状態を示している。そしてそれの典型的な例がグローバリゼーションだという。
この本ではこのグローバリゼーションという観点から、リスク、伝統、家族などの変容について述べている。
彼の「社会学」(ISBN:4880592501)という大著で引きつけられたときのように、単純に意見を述べるだけでなく、読者を引きつける興味深い話題が必ずちりばめられている。記憶に残ったのは、スコットランドの民俗衣装の伝統は産業革命以降の話だったという話しだ。*3
つまり、変化することがむしろ自然なのであって、伝統に固守することが不自然なのだという保守主義*4に対する挑戦である。イギリス労働党のブレーンであるから当然の主張ではあると思えるが、彼のイラク侵攻に対する意見を聞いてみたいところだ。
次に、家族という制度の解体について。これは非常にラディカルであるが、私もその通りだと思う。社会学者であれば同じ結論にたどり着くのかもしれない。夫婦の関係や親子の関係は、徐々に友人の関係と同様の「純粋な関係」になっていくという。これは、人間の平等というものが常識となり、民主主義があまねく広まるにつれて、さけられない帰結であるように思う。しかし、この関係は解消することが可能なことを前提としているのでとてももろくて、不安定だ。この不安定さが将来的にはさらに増大していった場合に、社会は結婚という制度を否定してしまうかもしれない。

*1:とくにそこに属する官僚

*2:例えば、国有化など

*3:じつはもっと記憶に残ったのは、ギデンズの母親が述べた言葉かもしれない。

*4:この本では「ファンダメンタリズム (原理主義)」と呼んでいるが