メディアの支配者

フジ・サンケイグループを支配していた鹿内家の、権力を得ていった方法と、失っていった顛末を描いたノンフィクション小説。まずは三代目が日枝久によって追い詰められていく話が描かれる。三代目は東大を出て興銀につとめる育ちのよいサラリーマンだった。そのせいか、あまり人が裏切るということや、権力を自分の手で奪い取るということにも疎かった。そして見事に完全な形のクーデターが成立してしまう。
次に、場面が転換し、初代の創業からクーデター勃発までの経緯が語られる。初代は旧日本軍の主計将校だった関係で経営者へのコネクション作りに成功し、日経連の幹部になる。日経連とは激化する労働問題に対して経営者側が結束して作られた団体であり、当然、反社会主義色=右派色のイデオロギーを押し出した形になる。ただ、そういう団体に寄付をする会社が多く、ニーズがあることを知り、左翼色が強かった既存メディアへの抵抗としてニッポン放送、フジテレビ、産経新聞の立ち上げを行う。
ただ、そういう経緯で作られた報道機関にもかかわらず、ニッポン放送とフジテレビは娯楽色を前面に打ち出し、いわゆる右派論壇の主張を前面に押し出すようなことはしなかった。一方初代曰く、産経新聞は「商業右翼」新聞とすることを方針とした。つまり、朝日新聞が「商業左翼」であることの裏返しである。まあ、朝日も産経も「商業」がつくというのは、革命などは起こってほしくない程度に煽るということであって、一種の体制を維持するためのガス抜き装置なのだろう。
初代は美術などをうまく利用しながら、グループ内のライバルを次々と放逐し、社長や会長ではなく、議長という(ある意味で「左翼的な」)名称のポストを作って、万全な体制を築き上げる。二代目は不振だったフジテレビを復活させ、メディアのリーディングカンパニーに育て上げる。このときに労働組合運動に参加して左遷されていた日枝などの有能な人材を呼び寄せている。だが、二代目が急死し、初代も程なくして死んでしまう。その後に、娘婿の三代目が跡を継ぐのだが、初代の妻との関係がよくなく、この面もうまく利用されてクーデターが起き、追放されてしまう。しかも容赦なく完全に追放されてしまう。因果応報といえるのかもしれない。
この過程において、検察・国税とメディアの強い関係が描かれ、ホリエモン事件などに大いに影響したこや、あの小沢一郎とフジテレビの蜜月時代についても書かれている*1。実はメディアの支配者とは日本の支配者の一端であるといえるのかもしれない。
すでに、ずいぶん前の段階から産経新聞はフジテレビの利益で持っているような状況だという。だとすると、他の新聞社が軒並み厳しくなっている今、もっと厳しくなっているはずである。ただ、この本によると、新聞社というのはそれだけで権威があるらしく、政治家・官僚などとのパイプ役には欠かせないらしい。とすると、新聞というメディアがダメになっても、何らかの形で残るかもしれない。影響力は確実に低下することは避けられないとしても。

メディアの支配者(上) (講談社文庫)

メディアの支配者(上) (講談社文庫)

メディアの支配者(下) (講談社文庫)

メディアの支配者(下) (講談社文庫)

*1:小沢一郎ももっと露骨な利益誘導型政治家になれば、メディアにたたかれることもなかったろうに、妙な理想があるのか中途半端な形でコミットしたために、逆に恨みを買う羽目になってしまった。